読書の木

川村元気『世界から猫が消えたなら』|「もし、命と引き換えに、大切なものを1つずつ失っていったら?」


🌳『世界から猫が消えたなら』

余命宣告を受けた僕が、世界から“何か”を消していく7日間。
電話、映画、時計、そして……猫。
大切なものを手放すたび、見えてきたのは“生きる意味”だった。

「誰かを想う気持ちを忘れかけたとき」に読みたい小説。
本記事では、あらすじ・感想・おすすめ本をわかりやすく紹介します(読了時間:約5分)。

著者: 川村元気
出版社:マガジンハウス(単行本)、小学館文庫(文庫版)
刊行年:2012年(単行本)、2014年(文庫)


📖あらすじ

余命宣告を受けた郵便配達員の「僕」は、ある日、自分そっくりの“悪魔”と出会う。

その悪魔は提案する。「世界から何かを一つ消せば、命を一日延ばしてやろう」と。

電話が消え、映画が消え、時計が消え──そして次に消す候補は、共に暮らす“猫”だった。

大切なものをひとつずつ失いながら、彼が最後に気づいたのは、 失くすことでしか見えない、“誰かと生きる”ということのかけがえなさだった。


この本を読む前に知っておきたい5つのこと

  • LINE連載から生まれた話題作
    2012年、当時としては斬新だった“LINE小説”として公開され、多くの共感を呼びました。
  • モノローグで紡がれる静かな物語
    登場人物の独白で進む構成。心の声が、静かに余白を埋めていきます。
  • 佐藤健×宮﨑あおいで映画化
    2016年に実写映画化。ビジュアルの世界でも話題となりました。
  • 「消える」は“物”ではなく“記憶”の話
    失われていくのは“物”ではなく、“誰かとの思い出”。喪失の本質に迫ります。
  • 猫の“キャベツ”がすべてを繋ぐ鍵
    物語の終盤、たった一匹の猫が、静かに心を揺さぶります


🫶こんな人におすすめ

  • 誰かとの別れを経験した人
    “もういない”という現実と、どう向き合えばいいのか。そっと背中を押してくれます。
  • 日常に息苦しさを感じている人
    見慣れた風景のありがたさに、静かに気づかせてくれる物語です。
  • ペットと暮らしている人
    一緒に過ごす時間の尊さと、その終わりの切なさが心に沁みます。
  • 哲学的なテーマが好きな人
    命、記憶、存在。その交換条件に、深く思考を巡らせたくなるはず。
  • 涙を流したい気分の人
    大げさな演出ではなく、日常の静けさの中に、じんわりと涙がこぼれます。
  • 原作と映画を比べて楽しみたい人
    文字と映像、それぞれの“感情の描き方”の違いが、味わい深いです。


📚この本が好きならこちらもおすすめ

 

『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ

【あなたには、いくつの“家族”がいますか?】

実の親、義理の親、血のつながらない親たち──
名字が何度も変わった少女・森宮優子は、家族を何度も“もらって”生きてきた。
自由すぎる継母、几帳面すぎる父。ひと癖ある大人たちと過ごす中で見えてきた、あたたかな日常。
そしてバトンのように、大切な想いは静かに受け継がれていく。
涙よりも、じんわり心に残る幸せをくれる、“家族のかたち”の物語。
きっとあなたも、自分の「家族」にそっと会いたくなる。

『レインツリーの国』有川浩

【誰かの言葉に、心を奪われたことはありますか?】

忘れられなかった本の感想を探していた伸行は、「レインツリーの国」というブログに出会う。
距離を感じる文体に不思議と惹かれ、思わず書き手・ひとみにメールを送る。
まさか返事が来るとは思っていなかった——なのに、丁寧な返信が届いた。
言葉だけのやりとりの中で、伸行は「会いたい」と願うようになる。
しかし、ひとみには“会えない理由”があった。
すれ違いながらも近づいていく、不器用なふたりの恋の物語。


『世界から猫が消えたなら』を読んで ──はるのぽつり。

「世界から猫が消えたなら」──
このタイトルを初めて目にしたとき、正直に言うと、「きっと涙が流れるような感動ものなんだろうな」と思いました。
でも、読み進めるうちにその予想は静かに裏切られて、気づけば私は、物語の中で自分自身と向き合っていました。
登場人物の痛みが、どこかで私自身の痛みと重なっていたんです。

余命宣告を受けた主人公が出会う、もう一人の“自分”のような存在。
「世界から何かを一つ消すたびに、命を一日延ばしてやろう」
そんな奇妙で残酷な提案が、この物語の始まりです。

電話が消え、映画が消え、時計が消え──そして、次に選ばれたのは、共に暮らす猫。
大切なものを差し出すたびに、主人公は“本当に大事なもの”に気づいていく。
それは何かを失うことでしか、見えないものなのかもしれない。
読みながら、私は自然とこう考えていました。

毎日当たり前のように隣にいる人。
使い古したスマホ。映画館で交わしたささいな会話。
朝、いつも通りに鳴る目覚まし時計の音。
そんな“日常のかけら”たちが、もし明日、何の前触れもなく消えてしまったら、
私はどれほど泣くだろう。どれほど後悔するだろう。

この本を読んだ日から、私はほんの少しだけ「ありがとう」を言うようになりました。
言葉にするのが恥ずかしくても、心の中で誰かに感謝することが増えた気がします。
そして、何よりも──
私は人生で初めて、自分の“死”について真剣に考えました。

私はなぜ生きているんだろう。
私の命には、どれだけの価値があるんだろう。
誰かの役に立てているのかな。
それとも、誰かの世界をほんの少しでもあたたかくできているのかな。

『世界から猫が消えたなら』は、
はるが初めて、「自分の命と向き合う」という体験をくれた物語です。

そして今、読んでくれているあなたにも、そっと問いかけてみたい。

あなたの世界から、何かがひとつ消えるとしたら──
それでも、生きていたいと思えますか?