「芥川賞ノミネート」と聞くと、少し身構えてしまう人もいるかもしれません。
「難しそう」「純文学って自分に関係ない気がする」
——そんな声を、私は何度も耳にしてきました。
でも、日々の暮らしの中で、
ふと「自分って、これでいいのかな」と感じたことがあるなら——
『たえまない光の足し算』は、きっとあなたにそっと寄り添ってくれます。
本記事では、あらすじ・感想・類似おすすめ本・読者タイプまで詳しく解説します(読了時間およそ3分)。
目次
🌳『たえまない光の足し算』
著者: 日比野コレコ
出版社:文藝春秋
刊行年:2025年7月

📖あらすじ
古びた時計台が見下ろす公園で出会った、
花を食べる“異食の道化師”、
フリーハグを続ける“抱擁師”、
そして“プロの軟派師”として生きる若者。
誰にも理解されないまま、
痛みや孤独を抱えて、それでも前を向こうとしていた。
変わること。帰れないこと。
それでも、光のように少しずつ重なっていく心。
それは、たえまない“光”の足し算。
生きづらさの中でも、“自分のままで”いられる場所を探す——
すべての人に贈る、静かで鮮やかな青春譚。
この本を読む前に知っておきたい4つのこと
- 「異食の道化師」——それは身体で語る、生きづらさ
花を“食べる”という行為は、奇抜さのためではありません。
誰かに届くかもわからない痛みや思いを、自分の身体で受け止め、
表にあらわそうとする——そんな切実な表現として描かれています。 - 幻想と現実が、らせんのように重なる舞台
時計台が見下ろす公園、そこに現れる“何かを売り歩く”とび商たち。
まるで寓話のような風景なのに、どこかで私たちの現実とつながっている。
そんなねじれた“日常”のような空気が、物語全体に静かに流れています。 - 2003年生まれの作家が放つ、詩的なことばたち
リズム、たとえ、断片。文章というよりも、まるで音楽のように響くその文体は、
好き嫌いを超えて“印象”として残る読書体験をくれます。
読む人によっては、立ち止まりながら味わうような瞬間があるかもしれません。 - 読み終えたあと、胸の奥に残るざらつきと光
美しさと異形、優しさと痛み。
矛盾するようで、たしかに共存している感情が、静かにあなたの心をさらっていきます。
それは、誰かの言葉や風景の中で、“あの物語の断片”がふとよみがえるような感覚です。
🚨注目の理由・選評まとめ
- 芥川賞候補として高評価された独自性
第173回芥川賞候補作として注目を集め、選評では「初投票から抜け出すだけの力がある」との声も。
唯一無二の世界観と強い文学性が高く評価されました。
- 現代社会を寓話的に描いた構成
時計台のある公園や「とび商」など、幻想的でどこか奇妙な舞台設定を通して、
現代の若者が抱える生きづらさや価値観の揺れを浮かび上がらせています。
- “身体”を通した表現と内面の深さ
花を食べる、抱きしめる、口説く——奇抜に見える行動の裏に、
自分らしさ」や「存在証明」への切実な思いが込められており、読後に残る感情の深さがあります。
- 若手作家ならではの鮮烈な文体
2003年生まれの作者による、詩的で断片的な文体も大きな魅力。
リズムやたとえが印象に残り、読む人によっては好みが分かれるものの、
強い個性として心に焼きつきます。 - 賛否を呼ぶファンタジー性
一方で、舞台設定のファンタジー性と現実描写のバランスに難しさを感じるという声も。
読む人によって、やや戸惑いや読みづらさを感じる部分があるかもしれません。 - それでも読み継がれる理由
物語の芯には、誰にも理解されないと感じる孤独や、
それでも誰かとつながりたいという祈りのような感情が流れています。
現実のようで現実ではない、“今”を映した物語として、多くの読者の心に残る一冊です。
あなたの中の“言葉にならない気持ち”に、そっと光を足してくれるかもしれません。
受賞作にこそならなかったものの、今後の文学界を語るうえで外せない一冊です。
🫶こんな人におすすめ
もし、今のあなたに少しでも重なるものがあったら、この本をそっと手に取ってみてください。
- 人との距離感に、少し疲れてしまっている方へ
うまく言葉にできない孤独や、理解されなさに戸惑う気持ちに、そっと寄り添ってくれます。 - 自分らしさって何だろうと思ったことがある方へ
「らしさ」や「表現」が、こんなにも身体的で切実なものとして描かれます。 - 痛みとやさしさが共存する物語に惹かれる方へ
読後に残る“ざらつき”と“光”が、きっとあなたのなかに静かに広がります。 - 今の自分に、少しだけ勇気を足したいときに
変われなくてもいい。でも、光はきっと重ねられる。そんな祈りがこの物語には宿っています。
あなたの元に、そっと光が届きますように。
📚この本が好きならこちらもおすすめ
『トラジェクトリー』グレゴリー・ケズナジャット
『トラジェクトリー』の詳細はこちらから
✨おすすめ理由
“言葉では届かない想い”や“他者との距離感”を静かに見つめるまなざしが重なります。
身体で、あるいは言葉で、自分らしさを模索する姿に、そっと共鳴が生まれるはずです。
同じ芥川賞ノミネート作品として、是非とも読んでおきたい作品です。

【誰かと通じ合いたいと願ったとき、あなたなら何を話しますか?】
名古屋で暮らすアメリカ出身の英会話教師・ブランドン。
見えない壁を感じていたある日、一人の生徒・カワムラが綴った「アポロ11号」のエッセイが心を揺らす。
星に憧れながらも都市の光に阻まれた少年時代。
軌道のように交錯する、ふたつの孤独とささやかな優しさ。
言葉の奥にあるものを見つめ直す、静かで確かな物語。
『踊れ、愛より痛いほうへ』の詳細はこちらから
✨おすすめ理由
他人から見れば奇異に映る行動の裏に、切実な“生きたい理由”がある——。
社会の隙間で揺れる若者たちの孤独と表現、その痛みと希望を描いた点で、両作は深く響き合います。
同じ芥川賞ノミネート作品として、是非とも読んでおきたい作品です。

【納得できないとき、あなたの心も“割れてしまう”ことはありませんか?】
納得できないことがあるたび、自分が壊れていくような感覚を抱えていた高校生・アンノ。
母の「あなたのため」という言葉に傷つき、庭にテントを張って暮らし始めた彼女は、自分の輪郭を守るように世界と距離を置いていた。
配達先で出会った青年との短い恋。そして彼の祖母・あーちゃんとの静かな対話だけが、心をそっと撫でてくれた。
壊れそうで、それでも生きていた少女の、痛みとやさしさの物語。
『たえまない光の足し算』を読んで ──はるのぽつり。
はるは昔、ずっと「普通」になろうとしていました。
明るく笑って、波風立てず、周りが期待する“普通”の言葉を選んで、普通の顔で過ごす。
でも、どこかにひっかかりが残って。
誰かが言った何気ない一言や、その場の空気、自分がついた小さな嘘。
そういうのが少しずつ積もっていって、
ある日、「このままじゃ自分がバラバラになっちゃいそうだな」って思ったことがあります。
『たえまない光の足し算』を読んだとき、
「花を食べる」っていう行動を見て、驚いたけれど、不思議と遠く感じなかったんです。
ちょっと変わって見えるその行動の奥に、
どうしようもない気持ちとか、自分でもうまく言葉にできない思いがつまっている気がして。
見えないところで静かに叫んでる感じ、なんだか分かる気がしたんです。
抱きしめたり、口説いたり、笑ったり、沈黙したり。
それが誰かには奇妙に映っても、本人にとっては「今、生きている」ってことを伝えたくてやっているだけで。
たぶん私も、気づかれないくらい静かに、そうやって自分を差し出してきたことがあったんだと思います。
誰かと一緒にいると、自分がぼやけてしまう気がしてしんどくなる。
でも、独りはやっぱりさびしくて。
そういう気持ちの間で揺れているときに、
この物語は、「どっちでもいいんだよ」って、そっと言ってくれた気がしました。
たえまない光の足し算。
きっとそれは、毎日のなかにこっそりあるものなんだと思います。
自分で気づいていなくても、誰にも届かなくても、
それでも少しずつ光を重ねていける。
読んだあと、そんな気持ちになれました。
この本を読んだあと、なんだか少し、自分を好きでいられたような気がします。
それだけで、十分に救われる本だと思います。