目次
ハルノキ短編小説『消えた日』
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ですが──もしあなたが、“誰かの代わり”を任されたとしたら?
今回の短編は、「退職代行で同期が消えた後、残された新人が選んだ静かな決断」の物語です(読了時間およそ6分)。
ほんの少しだけ、前置きを。
「仕事を辞めるとき、あなたはどんな顔で会社を出たいですか?」
この短編小説『消えた日』は、“逃げなかったこと”が評価され、でもその評価が自分の決断とは違っていた――そんな静かな余韻が残る物語です。
退職代行、ブラック企業、新人の引き継ぎ地獄、残された人間だけが背負う不条理。 その中で、何を受け取り、何を置いていくのか。
最後まで読んだとき、あなたはあることを考えたくなるでしょう。
この物語が生まれた理由
きっかけは、あるSNS投稿で見かけた一文でした。
「辞めたくても辞められない新人が、全責任を押しつけられていた。」
誰もが逃げて、残された人間だけが評価され、
でもその評価は“やらざるを得なかった”ことの上に成り立っている。
それは本当に、幸せと言えるのだろうか。
そう思って書き上げたのが、この短編です。
そして、この短編小説を読んだ人が、何かを切り出すきっかけになればいいなと思っています。
本編『消えた日』

「最近変わったな。やるじゃん。」
上司がポンと肩を叩いて笑った。
言われ慣れてない褒め言葉に、俺は「はぁ」と間の抜けた返事をした。
三人の同期が退職代行で消えてから、空気が変わった。
俺は“残った唯一の新人”になった。
それまでの俺は、ミスばかりで山本という名前すら覚えられていなかった。
上司に「またお前か」って言われるのが日課。
正直、自分でも向いていないと思っていた。
でも、気づけば回ってきた。
クレーム処理、報告書、客対応、数字のノルマ──
全部、やらなきゃ回らないからやっただけだった。
そしたら、いつの間にか評価されていた。
「山本、本当はできるやつだったんだな」
「最初はサボってたんじゃないの?人変わりすぎだろ!」
違う。
最初は本当に、何もできなかっただけ。
けど、やらざるを得なかった。
逃げ道が消えたから、前に進むしかなかった。
そしたら、なんか……できるようになっていた。
嫌でも手が覚えて、口が動いて、結果が出てしまった。
営業も請求書処理もクレーム対応も、俺が全部やった。
そしたら、会社の上司が言った。
「もう追加で人、いらんかもな。山本がいるし。」
翌日、求人ページが消えた。
面接予定だった新卒の連絡も取りやめになった。
その夜、俺は引き出しから封筒を取り出し、人事宛のトレイにそっと置いた。
少し伸びをして、帰ろうと足を向けたそのとき、ふと立ち止まる。
「……あ、そうだ」
ポケットからペンを取り出して、その場でメモ用紙に一言だけ書き添える。
封筒の上にそっと重ねて、何事もなかったようにオフィスを後にした。
「求人は続けた方がいいですよ。」
これが俺の最後の仕事だ。
『消えた日』のあとがき ──はるのぽつり。
『消えた日』、いかがだったでしょうか。
職場にいた同期がいなくなり、
気づけば、やるべきことが全部自分に回ってくる。
最初はできなかったことが、
いつの間にか“できてしまっている”ことに気づいたとき、
それは誇らしさではなく、どこか、寂しさに似た気持ちでした。
やらなきゃいけなかったから、やっただけ。
逃げなかったから、残っただけ。
それだけなのに、「できる人」としての期待や責任が積もっていく。
もしかすると、
今これを読んでいる方の中にも、
似たような状況にいる方がいらっしゃるのではないでしょうか。
「誰かの代わり」に動き続けて、
「頑張っているね」と言われるたび、
本当は少しだけ、疲れてしまっている方が。
ラストに残された「求人は続けた方がいいですよ。」という一言には、
やさしさと、ほんのすこしの皮肉が混ざっています。
現実ではなかなか言えないけれど、
心のどこかで、ずっと思っていたことかもしれません。
読んでくださって、ありがとうございました。
この物語が、あなたの心のどこかでそっと溶けて、
「本当の気持ち」を少しだけ、許してくれますように。
もし、何かが心に残ったなら──
感想や共感は、ぜひ
#消えた日 #ハルノキ
でSNSにてシェアしていただけたら嬉しいです。
この物語が、誰かの背中をそっと押す一行になりますように。
この物語が好きだった方へ
『仕事がしんどくてヤバいと思ったら』汐街コナ

【仕事を頑張っているのに、空回りばかり。そんな夜、ありませんか? 】
「もう限界かも——」
心をすり減らして働き続けた著者・汐街コナが、自らの過酷な体験を、優しい絵とことばで綴った実録エッセイ漫画。
「できないんじゃない、疲れてるだけかも」
そんな言葉に救われる夜が、きっとあります。
そっとページを開くことで、明日が少しだけ軽くなる——
そんな一冊です。
『おもかげ』浅田次郎

「もう限界だ」と思った夜に、ふと読みたくなる物語があります。
駅のホームで倒れた男が目を覚ますと、そこは見知らぬ世界。
亡き父、昔の恋人、過去の上司──再会するのは“言葉を残せなかった人”たち。彼らとの静かな会話が、やがて彼を“本当に伝えたかった想い”へと導いていく。
浅田次郎が描く、あたたかくも切ない「再生の列車」。
それは、あの日の自分を抱きしめる旅の始まり。